かなな著
「芽生・・。」
翔太の方も、目の前の光景が、理解できなかったようだった。証拠に、何度も目をパチパチやって、芽生と優斗の姿を交互に見ていたから。
「知り合い?」
耳元で優斗が囁いてくるので、焦った。
「あの・・その・・翔太は・・。」
モグモグ、ボソボソ言葉にならなくなってしまった芽生の様子に、優斗の瞳がスーと細くなってゆく。
その瞬間。
「俺は、北川翔太。芽生の兄みたいなもので・・今はこいつの親代わり。ってな感じの間柄だ。
あんたは芽生のカレシ?」
翔太の方が、立ち直るのが早かった。彼の説明のおかげで、優斗の視線が一気に和らいでゆく。
「兄さん?
・・・なんだ。そうだったんですか。そうです。始めまして、俺。竹林優斗と言います。 芽生さんと、現在つき合っています。
まだ、付き合って間・・ないですけど・・。」
と、淀みなく答えてゆく優斗の言葉。
芽生は一瞬耳を疑ってしまった。
(なにこれ!やたら愛想のいい言葉遣いは・・。)
その上、ニッコリ琥惑的な笑顔を浮かべたものだから、翔太だってア然となっていた。
しみじみ優斗の姿を見つめてから、芽生を確認するかのようにチラリと見つめてくる。そして彼なりに納得したらしい。
翔太はニッコリ笑みを浮かべた。
でも、目が笑っていない。
「そうなんだ。君がね・・芽生の相手ってわけなんだ。最近、様子がおかしいと思っていたから、そうゆう訳だったんだ。
ところで、芽生。ここの学生じゃないだろ?
どうしてここにいるんだ?」
と、言った翔太の顔。
恐ろしかった。
おまけに焦っているせいで、とっさに言葉がでない。
「すみません。ちょっと事情があって、ここにお邪魔したわけなんですが・・。」
優斗が説明を加えようとした時。
「あれぇ〜珍しいぃ〜竹林じゃん。やっぱ孝徳が懐かしくって返ってくるのか?」
翔太の横から声がかかる。
言葉をはさんだのは、翔太と同じ制服を着た男子生徒だ。
翔太が苦虫をかみつぶしたように渋い顔をするのを関係なしに、その男子生徒が、芽生の姿を目にとめてギョッとなったらしい。
手をつないだままの優斗と芽生の姿を交互に確認してから、
「お前。これはヤバいだろう。女連れてくるのは、反則だぞ・・おまけに、すげー可愛いじゃん。どこに転がってたんだよ、こんな上玉。」
目を見開いて口をはさんだ瞬間。翔太が間髪入れずにゴンと肘鉄をくらわす。
「いってぇ〜。」
うずくまった彼の様子は、本当に痛かったみたいだ。
「大丈夫?」
芽生が声をかけると、翔太がギロッと睨みつけてくるので、後ずさる。
「君・・前は、孝徳にいたのか?」
「えぇ・・。この学校にお世話になっていましたよ。」
翔太と優斗の会話に、肘鉄を加えられた男子生徒が、首をかしげる。
「竹林。何、北川に敬語で喋ってんだよ。おなじ一年生同士なのに。」
その言葉に、優斗の動きがピタリと止まる。
けれど、次の瞬間。
「えーっ!」
と、目を見開いて叫び声を上げた。
「だって、いま。この人。芽生の兄貴だって言ったんだぜ。どうゆう事なんだよ。」